彼女も、閉じ込めるタイプだった。 最後の最後まで、自分ひとりで決めて。 −−−−遊園地へ行こう(2) BGM、SUMMERで。 彼女の焼いてくれた魚、おそらくはアジの開きをつつきながら。 申し訳ないことに俺は、ナエのことを考えていた。 遊園地なんて。 そんなことをきのう、俺が、言った。 なんのつもりで。 彼女に向かってそんなことを、言った? …最低だ。 このデリカシーのなさで、何度ララのことを傷つけたと思ってるんだ。 遊園地は、ナエが大好きだった場所で。 わーい、デートするぞー、と思ったら、必ず行っていた場所だった。 その場所を、寝ぼけて口にしてしまうところとか。 俺は本当に最低なやつだ。 「ねえねえ」 そう思いながら、がつがつ、やけになって飯を口に運んでいたら、ピアノの音がやんだことにも気付かなかった。 「え」 「…なんか考えてたでしょ」 「考え、てた」 「…大丈夫」 「は」 「アズサが最低なんてことは百も承知だから」 「え、ええ!?」 「3回くらい、言ってたよ。最低だって」 そう言ってララは笑って。 またピアノに向き直った。 小柄な彼女にしては随分長い、きれいな指から紡ぎ出される音楽は、さっきの流れと色を変え。 緩慢な音の絡み合う旋律になった。 「アズサ」 「んー?」 「遊園地に行きたい。遊園地、行こう」 彼女の部屋、勝手に上がりこんで眠っていた俺に。 どこからともなく帰ってきた彼女は、囁きかけるように、そう、言った。 「…またぁ?」 「うん」 駄目? と、目線で訴えかけられ。 この人本当に俺より5つも年上なのかよ、と思って軽く息を吐く。 すると、「ちょっと、溜息つかないでよー」と、彼女はむくれた。 「ねー、遊園地ー」 「ナエ、本当に好きだね。遊園地」 「好きー」 「じゃ、行きますかー」 起き上がって伸びをしながら言うと、彼女は、うん、と、笑った。 遊園地遊園地、と、妙にはしゃいで。 家を出るまで、俺の方を見ることはなかった。 「アズサ」 「…ん?」 「遊園地、行かないの?」 ふ、と目を覚ますと。 どこかで見たことのある景色。 「ナ…」 「な?」 ぴし、と、頭を軽くたたかれて、意識が一気に覚醒する。 「寝るなよなー、アズサ」 覚醒してみれば、なんだか妙に腕がしびれていて、目の前にあったはずの皿類は見事にすべて消えていた。 大きなマグカップを残して。 「ああ、お茶、飲むかと思って新しいのを入れたんだけど」 視線に気付いて彼女は言った。 微妙に、俺から目をそらしていることに、気付く。 「ララ」 「んー?」 なんとなく視線をはずしたままの彼女の目。 フラッシュバックする。 あのとき感じた、何か。 「触ってもいい?」 と思ったら、とんでもない台詞が口をついて息を呑む。 な、何を言うとるんじゃワレ、と、自分に向かって変なツッコミを入れていたら、そのコトバにカチーン、と固まってしまったララが勢いよく視線をこちらに向け。 「何言ってるの、変態?」 怒っていいのか照れていいのか笑うべきなのか、という表情を浮かべていた。 「いや、なんだろう、俺もとっさのことでなにがなにやら」 「自分の言行に責任を持ってください」 「はい、すいません」 「寝言にも責任持って、下さい」 …寝言? 「…俺、」 「いい、嘘! 寝言なんか言ってないよ、よだれ垂らしてよく寝てたよ!」 「嘘」 「嘘でもいいじゃん、深刻なの、ちょっと、疲れた、今日は、もう、勘弁して」 「…ゴメン」 「うわぁ、だから深刻なの、今日はもう勘弁してって!」 そう言って彼女はものすごい力で俺の頭をはたいて。 俺の頭はものすごい音を、立てた。 「い、いった!!」 あまりの痛さにコトバを紡ぐことさえままならず、俺は床にばた、と倒れこんだ。 「ご、ごめ!!」 慌ててしまったのか、彼女もうまくコトバを紡ぐことができてないのがなんだか笑えた。 手加減とか、知らないのかなこのひとは。 と思って俯いたまま笑っていたら、 「大丈夫? い、痛かった? 痛かったよねすごい音がしたもんね」 と、ララはかなりおろおろしている。 それがまた面白すぎてますます顔が上げられなくなったのだけど、そろそろ何か言わないと悪い気がして、思わず口をついたことばは、さっき口をついて出た言葉と同じだった。 「うん」 と、彼女が言ったので。 俺は起き上がって笑いで震える手を上げて。 彼女の頭をくしゃくしゃと、なでてみた。 「じゃあ、とりあえず今は、遊園地に行こうか」 「な、ちょっとアズサ、笑ってるの?」 今ごろ気付いたのか。 変なところ、天然だなぁ。 と思ってますます笑ってしまって、思い切り、叩かれた。再び。 NEXT |